屈折する星屑エセー

本職は医療従事者ですが雑記帳として綴ります。

事例でみる胃がん検診見落とし率

 

さて今日は世間をにぎわせている、がん見落としについて考えようと思う。

近年大きく報道された事例を紹介

・杉並区河北健診クリニックで胸部X線検査後に、肺がんを見落とし40代女性が死亡した問題。2018年11月16日、産経新聞は同クリニックでさらに他5人の見落としの可能性があると報道している。『産経新聞』2018年11月16日朝刊

 他には

・2017年東京慈恵医大病院、肺がん疑いと発見された男性が1年間放置され死亡。

・2018年8月北九州市立医療センターで肺がんを見落とされた男性の死亡が発覚。

 

このように最近はがん発見に対する見落としが相次いで発生し、医師や病院、施設の質や管理運営方法が厳しく問われている。技術の進歩により検査などの患者情報が過多になった結果、医師の能力を超える問題も浮き出ている。それに呼応して医師であっても人間の目を信用せずAI人工知能による読影(画像診断)に期待する国民の声も一部あるようだ。

 

検診施設や医師にとって、検診とは性質上がんを早期で発見するのが当然であり1例でも見落としてしまえば受診者の命に直結し、さらに訴訟や社会問題に発展する重大なリスクをはらんでいるものとなっている。 

胃がん検診の見落としはどれくらい?

胃がん検診のがん見落とし率についてはどうだろうか。今日はこれが本題。

今回は国立がんセンターのがん検診に関するNHK報道に対する見解からひもといていきたい。

青森県が行った「がん登録データの活用によるがん検診精度管理モデル事業 平成28年度報告書」に端を発する青森県のがん検診の各種統計についてNHK2017629日に青森県の胃がんと大腸がんの見落とし率を4割と報道した。

 

4割は相当な数字だ。これを聞いた青森県民は間違いなく検診を他県で受けるようになるだろう。青森の医療機関は大丈夫かとなるだろうが、実はここに報道はされない数字のカラクリがある。これを一緒に考えてみよう。(4割という値は感度60%の結果から求められたものだが、機会があればこれも追記したい)

その前に見落としって何?から始めよう。

"見落とし"とは偽陰性のこと

見落としとは三省堂大辞林によると「見ていながら気づかないですごす。看過する」とある。ふむふむ、ではこれを胃がん検診に当てはめてみよう。「胃がんを見ていながら気づかないですごす」となる。なんのことかさっぱりわからない。むしろ、胃がんを見ているなら気づけよ!そのまますごすな!!という至極当然の話になってくる。

国語的な定義とは異なり、医療界での見落としは「偽陰性」に該当する。

偽陰性とは「あるテストに対し実際には陽性の反応を示しているにもかかわらず何らかの原因で陰性に見えること。」

www.weblio.jp

つまり、本当はがん(陽性)なのに検査の結果がんではない(陰性)ですよ。とされる偽の陰性のこと。もし自分が偽陰性であったら本当に恐ろしい。がんは無いと診断されたのに、何かのタイミングで見つかり突然余命のカウントダウンが発生するようなものだ。

では偽陰性の数を具体的に絞り込むにはどうすればよいだろう。

偽陰性(≒見落とし)を定義する

「検診を受診し陰性とされた者でその後一定の間隔で定められた次の検診までの間に診断されたがん」と国際標準で定義づけられている。これを踏まえ偽陰性の確率を考えたい。

見落とし率の算出は困難?

上記の青森県のがん検診の見落とし率が驚異の4割という結果に対して国立がんセンターは3つの問題点を挙げているが、これを参考にしてみたい。

1.事業対象自治体が少なく、がんの数が非常に少ない

2.十分な観察期間が確保できない

3. 偽陰性として計上されたがんに偽陰性として計上するべきでないがんが含まれている

 

 1. 今回の対象とされた10町村の対象人口は青森県全体の約6%としており、県全体を表す指標として不十分。数が少ない報告から算出された数字は少しの違いで大きく変わるためこれだけで評価することは不適切である。

2.受診者によっては受診時期からの観察期間が短く、精密検査中であることなどから、がんであっても計上されない可能性がある。

3.検診後に、無症状で受診した医療機関でたまたまがんが見つかった場合は早期であることが多い。

国立がん研究センター.  「青森県のがん検診での見落としに関する報道について」.2017年7月13日

青森県のがん検診での見落としに関する報道について|国立がん研究センター

簡単に解説
  1. これはそのままの意味
  2.  例えば、本当はがんなのだが精密検査の結果を待っている間に、がん患者の集計が終わり検診の結果が何も反映されないということ。これは検診の陽性という診断が正しかったのにノーカウントにされてしまったという不本意な結果。(感度に影響する)
  3. この早期がんは次回の検診で本来なら見つけられたはず。それを見落としに含めるのは意味合いが違うよね、という話。

以上のように、見落とし率(=偽陰性率)というのは統計期間の設定や母数、発見のタイミングなどで恣意的にも数値が変わってくるため正確な結果を算出することは非常に難しい。 

見落とし率算出については様々な不確定要素が加味される可能性があることから、集計として真に正確な数値が出されることがない。論文などでは要精密検査率や胃がん発見率、的中度といった数値が示されるものの、偽陰性率を採用しているものを目にする機会がないのもそういった理由によるところが大きいようだ。

 

まとめ

NHKの報道を考えたとき4割もがんを見落とす県ってどうなってるの?と思うよりまず、40%という意味に疑問を持つべきだ。医療機関は日本全国同じ厚労省管轄、県内の医学部も他県と同じ文科省管轄なのに、青森だけ医療レベルが格段に低いはずがない。青森県下で内戦が起こっているならまだしも、日本国内はどこにいってもほぼ同質の医療サービスを提供しているのにも関わらずだ。センセーショナルを起こしたい報道による極端な数字は鵜呑みにすることがないように気を付けたい。

 

ということで都道府県や施設のがん検診の評価をする場合、見落とし率に注目するのではなく他の指標で判断することが望ましいといえる。他の指標については別の記事で。

 

おわり