屈折する星屑エセー

世はさだめなきこそ いみじけれ

小さな組織でMウェーバー「官僚制」をやるとマートンの「官僚制の逆機能」が噴出する

仕事をしていて考えていたのが、これは何かで学んだことがあるという既視感だった。

 

筆者の職場は小規模の医療機関である。

そこでとある事態が発生した。

詳細は伏せるが、この後の各部署の対応を見ていてふと思ったのが、

 

マックスウェーバーの「官僚制」とその問題点を突いたRKマートンの「逆機能」だった。

 

ウチで発生したその事案とは簡潔にいうとイレギュラーな事態にどう対応するのかというものだ。

大組織になるとイレギュラーな事案が多発しすぎてそれはイレギュラーではなくなるように思うのだが、小さな組織ではそれは偶発的事象の域を出ない。

前者では今後のイレギュラーを防ぐためのマニュアルが整備される。となればそれはもう通常業務として扱われるだろう。

しかし、後者の場合である。

まぁウチの組織についての話になるのだが、今後いつ起こるかわからない事案に対してもマニュアルを作成しようという話が出た。

筆者は「それはなんのため?」とまず思った。

なぜなら、次に同じ事案が発生したとして(それはおそらく数年先かもしれないが)スタッフは今回作ったマニュアルを覚えているだろうか、いやむしろマニュアルの存在自体忘却の彼方なのではないか。

 

これこそがRKマートンの官僚制の逆機能論を体現していると思ったのだ。

この逆機能論がどんなものか少し紹介したい。

0.1.6. 官僚制の「逆機能」の指摘
マートンによれば,その真偽は問われるべきであるが,ヴェーバーは「官僚制組織のポジティブな達成と機能を強調し,官僚制組織内に発生するストレスや緊張を無視している」(Merton,1968:251)として以下のような「逆機能」に言及した.

(1) 「訓練された無能力」

官僚制は訓練による規律によって,規則順守の意思決定と組織運営を実現する.

中略

規則を適用すれば,誰でも職務遂行が可能となる.しかし従来と異なる問題状況,規則制定時,想定しなかった状況では官僚制の対応は不適切な結果を導く.環境状況の変化にもかかわらず,従来通り規則を順守すれば組織目標の達成をむしろ妨げ,官僚制は「訓練された無能力」(trained incapacity)を露呈する.

(2)「目的の転移」

官僚制では組織目的の達成のため規則が制定される.しかし規則の順守自体が目的達成より優先され,手段であった規則の順守が目的であるかのような対応が行われる.これが「目的の転移」(displacement of goal)である(Merton,1968:253).規則の順守が信頼性を高めるのか,結果としての目的達成がそうであるかが問われねばならない.この指摘も組織の矛盾過程の問題に関係する.

(3) 規則への「過同調」

「過同調」(over-conformity)は,組織目的の達成のため規則が制定されるが,「法規万能主義」のように規則から逸脱する意思決定が回避されることを意味する.前例のない意思決定や規則の運用,規則の枠を超える意思決定は困難となる.組織目的の達成が妨げられても規則順守が優先される.マートンは,この問題を継続的な訓練による規則への心情(sentiment)を原因とし,「かかる心情から自己の義務に対する献身」によって,非効率でも「きまりきった活動が規則正しく遂行される」(Merton,1968:253). 

中略

(5) セクショナリズム

官僚制の職員は安定的な雇用関係から,同じ職場の職員と利害が共通し,また先任順に昇進し,職員同士の攻撃は最小限となる(Merton,1968:255).職員たちは内部集団に結束する(Merton,1968:257).この結果,公益や顧客より,自分たちの共通する利害を優先する.自分たちの利益が十分に保障されない場合,上司(大臣)の処理できない大量の資料や文書を提出し,必要な情報提供や報告を遅延,回避させ得る(Merton,1968: 255).こうして自己の保身と所属部署の利益を擁護する.

以上のような逆機能は,組織の実際の問題を多面的に描写する.より重要な問題は,逆機能を発生させる官僚制の構造にある(Merton,1968:254)

https://www2.rikkyo.ac.jp/web/hikaku/bureaucracy.htm#0.1.6.%20%E5%AE%98%E5%83%9A%E5%88%B6%E3%81%AE%E3%80%8C%E9%80%86%E6%A9%9F%E8%83%BD%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%8C%87%E6%91%98

全くマートンの言う通りの現象が起きている。

訓練された無能力

ガチガチに固められたマニュアルは、医療現場などのむしろイレギュラーしか発生しない現場には不向きである。各部署の手順や作法を守りすぎることによって患者さんに不利益を被るはめになる。

実際に、部署ごとの取決めを守ることでかなりの待ち時間を発生させてしまった。

 

目的の転移

規則を守ることを目的とするあまり、患者さんへの医療サービスの提供がおろそかになってしまう。

この場合、事態が悪化した後に「規則を重視したから」というのと「実際に患者さんへのサービスが低下したけど」という双方落ち度のない言い分が発生してしまう。

 

規則への「過同調」

前例のない意思決定や規則の運用,規則の枠を超える意思決定は困難となる.組織目的の達成が妨げられても規則順守が優先される.マートンは,この問題を継続的な訓練による規則への心情(sentiment)を原因とし 

あまりにマニュアルを重視しすぎると、本来の目的が見えなくなってマニュアル至上主義のようにスタッフは考えるようになる。

 

セクショナリズム 

今回の職場でのマニュアル騒ぎはこれであろう。

自分の部署を何よりも最優先するという判断によって起こされたものだと考えている。イレギュラーな事態のため関係各部署に責任は等しくあるものだと思うのだが、とある部署が自身の責任逃れのため、もしくはプライドのためにマニュアルを作成しようと言い出したものであると推測する。

声を大にして規則を制定しようと提案すれば、その部署の責任は一見回避されたかにみえる。次回への対策を第一声に言うことで全てが覆い隠せると考えている節がある。そしてそれは上司による評価に繋がると期待しているからだ。

 

まとめ

医療機関とは文書主義の官僚ではなく全てが法と規則に基づいて執行されている業務ではない。サービス業なのだ。

そこに官僚制を持ち込むとこのような弊害が起こることが予想される。というかむしろ発生している。

優先されるのは規則であり、自部署の責任逃れであり、他者からの評価なのだ。

 

もちろん、官僚組織や民間の大組織であれば官僚制は致し方ないと思える。

しかしウチのような地域密着型の小さな組織でそれをやってしまうと官僚制の逆機能が前面に押し出され、本来の患者サービスがはるか後方へ追いやられてしまう。

 

小さな組織であれば、柔軟な対応こそが必要だと考えている。

お互いがミスをなすりつけ合うのではなく、フォローし合う関係性が小規模組織の強みだと思うのだが。

 

以上。

 

余談

ブコメ返事記事は気を遣わせてしまうようなので今後はやめておきます。

ま、ちょっとした企画ということでひとつ勘弁。