屈折する星屑エセー

本職は医療従事者ですが雑記帳として綴ります。

茨城県日立市調査。低線量CT肺がん検診、死亡率大幅減の報道をマニアックに考察する。世界的発見だと思う理由。

突然ですがみなさん、検診受けてますか?

今回は大変真面目な内容かつ長文そして本当に面白くありませんので肺がんになりそう!と心当たりのある方のみ読んでください。

はじめに

産経新聞2月25日朝刊に気になる記事があったので、毎日CTを触っているポンコツ技師として考えてみたいと思う。

こちら産経記事。

コンピューター断層撮影(CT)を用いた肺がん検診を受けた市民は、肺がんによる死亡率が5割減少したことが茨城県日立市の住民対象の研究で分かった。肺がんは難治療のがんに数えられ、日本ではがん種別で男女合わせた死亡数で最も多い(平成29年)。CT検診によってがんの早期発見につながり、死亡率を大幅に下げたとみられ、研究結果は全国の検診のあり方に一石を投じそうだ。
◆小さい病変でも発見
 日立総合病院呼吸器内科の名和(なわ)健医師が日立市の協力を得て実施し、今月8日、茨城県日立市で開かれた第26回日本CT検診学会学術集会で発表した。
 日立市民を対象とした同研究は平成10年から18年までの間、一般的なCTよりも低被曝(ひばく)の「低線量CT検診」を1回以上受けた1万7935人(男性9790人、女性8145人)とエックス線検診のみ受けた1万5548人(男性6526人、女性9022人)を比較し、24年までの肺がんによる死亡の割合を調べた。
 その結果、死亡率でCT群はエックス線群より51%減少することが判明した。この結果は今月、学術誌「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー」に掲載された。

大家俊夫「低線量CT検診で早期発見寄与 肺がんの死亡率大幅減 茨城県日立市調査」産経新聞 2/26(火) 9:00配信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190226-00000502-san-hlth

新聞でこの記事を読んだ時に「ほー、CTはさすが情報量多いなぁ」と改めて感心したのだが、数ヶ月前にこの肺がんCTの認定技師資格を取るために調べたのを思い出した。

そこでどんなのだったかなと改めて肺がんCT検診についてリサーチしたところ、この論文は世界的にみても画期的な結果を出した研究ではないかと驚いているところである。

肺がん検診とは

肺がん検診ガイドライン

では一体肺がん検診とは何だろうか。

みなさんが職場や自治体で受けている胸部X線はもちろん肺がんの発見も目的のひとつだが、そのレントゲンは結核予防の名残という意味合いも含んでいる。

ここからは純粋に肺がんのみを対象とした検診について紹介したい。

肺がん検診について
肺がんは、日本人のがんによる死亡数のトップを続けています。
しかし、症状の出ないうちに検診を受診し、早期のうちに治療すれば約8割が治るようになりました。
1.肺がん検診の基本情報
・肺がん検診の対象者
40歳以上

・受診間隔
年に1回

・主な検診内容
問診、肺X線検査、喀痰細胞診
喀痰細胞診の対象者は、50歳以上で喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人。

・肺がん検診を受けられる場所と問合せ先
地方自治体(都道府県、市町村、特別区)
保健所(ホームページ、電話)
(対がん協会の支部でも検診を行っているところがあります)

・肺がん検診の検査結果
検査結果は、検査後10日~1ヶ月ほどで主に文書で通知されます。

検診について | 日本対がん協会

https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/%E5%90%84%E7%A8%AE%E3%81%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E8%82%BA%E3%81%8C%E3%82%93%E6%A4%9C%E8%A8%BA%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6 

こう見ると年齢や 非リスク群とリスク群(喫煙者)に分け、喀痰検査が追加されるかの違いがある。

ここで不思議に思わないだろうか。

そう、低線量CT検診の項目がないのである。肺がん検診においてCTは必須ではないのだ。

肺がんCT検診の意義

一層早期の肺がん発見の研究の必要性も提言されてきた。CT による肺がん検診 の研究は、日本の先駆的研究者が世界の研究を牽引し、多くの知見と経験を集積してきた。単純 X 線検診と 比較(historical control)して、CT 検診による肺がん発見率は約 10 倍程度高く、発見肺がんは早期の比率 が高く、その治療成績も良好であること、また予後良好とされるいわゆる「すりガラス陰影」を呈する高分 化型腺がんの比率が高いことなどが明らかにされてきた。

日本CT検診学会 - 肺がんCT検診ガイドライン

https://www.jscts.org/index.php?page=guideline_index

このようにCT検診学会のガイドラインにはCTがレントゲンよりもいかに発見率が高く、しかも早期発見による予後が良好であるか主張している。

ますますCT検診が基本項目に入っていないのが不思議に思えてきた。

そのワケを順を追って考えてみたい。

米国の肺がんCT検診の減少効果。

上記、肺がんCT検診ガイドラインの続きにはこうある。

これらの成果を受けて、海外では複数のランダム化比較試験が行われ、米国で行われた National Lung Screening Trial(以下 NLST)において、CT 検診による肺がん死亡率の減少効果が示されるに至った。

日本CT検診学会 - 肺がんCT検診ガイドラインhttps://www.jscts.org/index.php?page=guideline_index

日本が先導した肺がんCT検診はアメリカにおいて肺がん死亡率の減少が示されたというものである。では昨日の産経新聞の記事と同じではないかと思われるかもしれない。

しかしながら決定的な違いがある。

本試験(NLST)では 55 歳〜74 歳までの重喫煙者(過去および現在)53,454 人を無作為に 2 群に分け、片方には胸 部単純 X 線撮影(26,732 人)、もう片方には低線量らせん CT による検診(26,722 人)を実施した。

(中略)

CT 検診を受けたグループでは単純 X 線検 診を受けたグループに比べて、肺がんによる死亡が 20.0%(95%信頼区間:6.8-26.7%, p=0.004)、総死亡 が 6.7%(95%信頼区間:1.2 – 13.6%, p=0.02)、それぞれ減少したことが示された

 日本CT検診学会 - 肺がんCT検診ガイドラインhttps://www.jscts.org/index.php?page=guideline_index

NLSTの対象者として

  • 55〜74 歳の重喫煙者(30 パック・年以上で、過去喫煙者の場合は禁煙から 15 年を超えていないこと)
  • かつ過去に肺がんと診断されていないこと等の条件を満たすもの 

とされこの結果レントゲンと比較して

  • 肺がんによる死亡が 20.0%減少
  • 総死亡 が 6.7%減少

とある。

つまりアメリカによる唯一の肺がん死亡率減少結果を出した研究(NLST)はその対象者が重喫煙者に限定されていたのである。

日本CT検診学会の正直さ

喫煙者/非喫煙者という対象者を選定することのない統計的に有意な結果が存在していなかったために肺がんCT検診は必須とされておらずCT検診精度管理ガイドラインにはこう書かれている。

現時点でCT 肺癌検診の肺癌死亡率減少効果を、統計学的な有意差をもって示す成績は存在しないことから、CT 肺癌検診は、「科学的に有効性が確認されていない検診」と考えなければならない。

日本CT検診学会 - 肺がんCT検診ガイドラインhttps://www.jscts.org/index.php?page=guideline_index

学会が自分たちの推奨する医療行為(それが学会の本幹であるのに)を「科学的に有効性がない」と言い切るのは本当に驚いた。調査の数がないだけで結果はついてきているからリスク高めの人は受けてくれというスタンスなのだろう。

日立市調査は全国自治体のありようを変えるか

とこのような私の憶測も入ったガイドラインの謙虚さ(学術的には当然なのかもしれないが)は、今回の日立市の調査によって変わるかもしれない。

日立市の調査では高リスク群に限定した統計ではないようだ。喫煙非喫煙関係なくレントゲンと比較した死亡率減少は51%であり、喫煙者のみ対象のNLSTの死亡率減少20%よりも圧倒的にCT検診の有用性を表している。

今後の問題はCTの被ばく量に焦点が行くと思うが、そもそも低線量でのCT検診なのでリスクよりもベネフィットを取りやすいだろう。しかも技術革新によって被ばく量の低減にメーカーはしのぎを削っている時代である。

そうなると上記の肺がん検診の項目に「科学的に有効性がない」との不名誉の記載をされることなく、追加される日も近いと私は考えるし、そうなるといいなと願っている。

舞台裏はどうか

検診施設技師はレントゲンだった人がみんなCTになると煩雑さで絶叫するだろうから、実はそこが最後の問題かな。レントゲンだと早くて1人30秒なのが、CTになると5分以上は延びると思われる。検診施設職員はしばらくはオプションでお願い!と思うだろう。私もそう思う。

今できること

そもそもの本質はこのブログでも再三伝えているように、リスクファクターを減らすことが最優先である。見つけてもらうのではなく、発生させない。

喫煙者は今すぐ卒煙!!

ということで今回のマニアック考察終わります。

 

画像もない、笑いもない4000字近い記事になりました。最後まで読んでいただいた方はどれくらいいらっしゃるかわかりませんが、大変長らくのお付き合いありがとうございました。

明日からまた脱力系で行きます。よろしくお願いします。