屈折する星屑エセー

本職は医療従事者ですが雑記帳として綴ります。

「もみあげは自然ですか?」の自然とは何? 1000円カットで時が止まる

先日散髪に行った。

筆者は1000カットのヘビーユーザーである。1000円のクオリティで十分満足なのだ。 

なぜ一般的なサロンに行かないかというのは深く考える部分ではなく、今回はいつも行くカットのみのお店の事をとりあげたい。

 

カットも後半に差し掛かると美容師さんに必ず聞かれるフレーズがある。

「もみあげは自然ですか」

と。

ちょっとここで聞き流すのではなくて、皆さんも考えてほしい。

モミアゲハシゼンデスカ

の意味を。

 

初めて聞いたときは本当に耳を疑った。

この人は何を言っているのか、と。

もみあげは自然とは?

この時筆者の頭の中はいくつもの仮説が浮かんでは消えその一つずつをシラミ潰しに否定していった。

この人はおれのもみあげが自然かどうか聞いているのか?

ちょっと待て。言ってる意味がわからないが、落ち着いてまず自然の定義を考えてみよう。現代文の小論において自然は頻出のテーマだ。これまでたくさん勉強してきたじゃないか。

自然=nature

私のもみあげは正真正銘私の皮膚から生えた毛によって構成されている。この意味では間違いなく筆者のもみあげは自然と言える。

かといって

「もみあげは自然ですか?」の問いに

 

「ハイ、自然です!」

 

と答えるのは何かおかしい。違和感しかない。

これはまるで自然のもみあげが存在しているようではないか。現代文の常識として非自然とは人工物のことである。

こう返事をすることで人工物のもみあげ、つけヒゲならぬ付けもみあげを示唆する回答になってしまう。

いやいや、つけひげはさることながら付けもみあげを日常的にたしなんでいる方はいないだろう。もみあげだけを付ける需要は日本の社会において存在していない。となるとこの仮説は異なっていることになる。

待てよ、もしかしたら聞き間違いということもある。もう一度なんと言ったか聞いてみよう。

「えっと、すみません。もう一度お願いします」

 

「あの、もみあげは自然でよろしいですか」

 

また来たよ!

聞き間違いであってほしかった!!

もうそのもみあげは自然の意味がわからないんだよ!!

というのはおくびにも出さず仕方ないので考え直すことにした。

 

もみあげは自然

というのはどうやらもみあげのスタイルについての相談らしい。

ではもみあげは自然スタイルとは一体なんだろう。

やはり念頭にあるのは自然=natureである。

もみあげは自然のイメージがわからないのでもみあげは非自然のスタイルを想像してみる事にした。

そうすれば帰納法的におのずと自然スタイルが見えてこよう。

  • 左右のもみあげが違うアシンメトリー

  • テクノカットさながらもみあげがスパーと無い

  • 尾崎紀世彦さながらもみあげがとどまることを知らず大増殖している

  • もみあげだけパーマがかかっている

  • 爪楊枝くらいの細いもみあげがスッと通っている

  • 側頭部は刈るがもみあげだけ存在するいわゆる大五郎カット

 

想像力が貧弱な筆者ではもみあげは非自然のスタイルがこれくらいしか浮かばなかった。しかし、真実に近づきつつある。

つまりもみあげは自然とは以上の非自然スタイルに該当しないものを指すということで間違いないだろう。

依然、このように思考を巡らせても感覚的にもみあげは自然に全然慣れないがそろそろタイムアップである。

もう無難に「お願いします」と返事をしようとした矢先、隣の席から同じような会話が聞こえてきた。

 

もみあげは自然ですか?」

 

「はい、自然で」

 

なに!!!

その瞬間筆者は己の無知を自覚した。隣のお兄さんはもみあげは自然を素直に受け入れているどころか、自分からもみあげを自然にしてくれと頼んでいるではないか。

この事実からいえることは

もみあげは自然は市民権を得ている

ということである。

屈した筆者は担当の美容師さんにあっさりと

「自然で」

と答えたのだった。同調圧力という恐ろしさを身を以て知ったのだ。

振り返ってみると当初答えようとしていた

「ハイ!自然です」

の“す”が余計だった。“自然で”と“で”で止めておけば正解だったのだ。逡巡も徒労に終わり、正解は既に内包されていた。

 

カットが終わり鏡もろくに見ることもなく礼だけ伝え店を出る。その頃にはもみあげは自然の答えが知りたくて早くググりたい一心であった。

帰宅するや否や「もみあげ 自然」を検索すると、やはり同じように疑問を持つ人もいて安心した。だが、画像検索では一向に自然らしさが出てこないではないか!

一番上に北の若きリーダーが出てくるのはなぜだ!!

テクノカットが本当の答えなのか!!

妻にも疑問をぶつけてみたが爆笑するだけで何も答えない。この女は美容室でもみあげについて話さないのか。

くそ!!

いっそのこともみあげは自然は忘れて今日のカット具合を確認しようと洗面台の前に立った。

するとそこには、なんのことはない“自然”なもみあげがあったのだった。

終わり。