屈折する星屑エセー

本職は医療従事者ですが雑記帳として綴ります。

東京新聞1月21日一面トップは恐怖と差別と偏見を撒き散らしている。

今日は自分自身の復習がてら面白い記事を見つけましたので解説ついでに私の見解も織り交ぜていきます。

最後まで読むのに大変時間がかかります、ごめんなさい。暇なときにでも見てくれると嬉しいです。

はじめに

フリーランスライターである林智裕氏による東京新聞1月21日一面トップに対する検証記事が非常に面白く、問題点を突いています。

gendai.ismedia.jp

マスコミならぬマスゴミとまで呼ばれる大手メディアの凋落が叫ばれて久しいですが(誤報によって国益を損なわせた朝日新聞しかり、今回の東京新聞の印象操作しかり)、このようなフリーライターが存在する限りジャーナリズムはまだまだ健全であると安心できます。

情けない東京新聞

東京新聞の該当記事は放射線に関する国民のアレルギー反応をうまく利用したただの話題作りですね。そこには何の裏付けもないセンセーションだけを期待した新聞社の売名行為の域を出ない三文記事でしかありません。これが日本の大手マスコミの一角なのですから本当に恥ずかしい限りですね。情けない。よりによって一面にしちゃうところもね・・・。

林氏記事解説(になってるかな)

林氏の検証記事ですが、中には難しい記述がありますので、放射線を生業とするものから私の意見を加えてみようと思います。

3つの問題

林氏が指摘するのは大きく3つ

  1. 報じられたメモの内容をもって「この少女が100ミリシーベルトの被爆をした」とは言い切れないこと
  2. 仮に100ミリシーベルトの被爆をしたとしても、がんの発症に直結するとは言い難いことが正しく伝えられていないこと
  3. 被害当事者の人権や二次被害助長への配慮が不足していること 

 問題点解説

〈検査機器として『GMサーベイメータ』が使われた。甲状腺の放射性ヨウ素の測定は通常、体内からの放射線を調べやすいNaIサーベイメータ』を使うが、技師がいた検査会場にはなく、GMで代用したとみられる〉

と書かれています。

まずGMサーベイメータは、空間線量や物体表面の放射線量を検出するための機器であり、人体の内部被曝を正確に測定するための機器ではありません。震災直後の当時、検査機器が十分に行き渡らなかったのは確かですが、それによって計測された「頸部(けいぶ)5-7万cpm(GMで測定)」という数値も、内部被曝のみを正確に表した数値ではありません。2019.02.19 林 智裕 現代ビジネス「福島の11歳少女、100ミリシーベルト被曝」報道は正しかったか「がん発症」とも書かれて…

とあるように、原発の放射能漏れに対する計測方法が正式なものではないため元となる数値(ベクレル、cpmやグレイ)ももちろん異なってきます。それをシーベルトへと変換し最悪の事態を想定した概算値を算出したとあります。(グレイからのシーベルト換算はまた改めて記事にしたいと思います。大変つまらないため読む人はいないでしょうが。)

これは専門家としては当然とるべきリスク予期行動だと思います。物資が足りずにありあわせの計測器(NaIシンチレータではなくGMサーベイメータ)で出した計測値から最大のリスクを想定する、これが専門家としての義務だと思います。むしろ過少にリスクを見積もるよりはるかにマシだと思いますが。

1を踏まえての2です。

以前、私のブログでも紹介しました低線量被爆についてです。

www.ladystardust.space

100ミリシーベルトの被爆でがんが100パーセント発症するわけではない!とお伝えしたのですが、東京新聞はがんが発症するかのような記述ですね。

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発ガンなどの確率的影響については,被ばく線量が多くなれば発症する確率が高くなるという傾向があります。しかしながら,100ミリシーベルト以下の低線量域では,被ばく線量と発ガン率との間に統計学的に明確な関係が認められていません。そこで,国際放射線防護委員会(ICRP)は,明確な関係が認められる長崎・広島における被ばく線量と発ガン率との関係直線を100ミリシーベルト以下の低線量域にも延長できるものと仮定して,放射線防護の基準を定めています。

確定的影響と確率的影響|除染技術情報なび|日本原子力研究開発機

https://c-navi.jaea.go.jp/ja/background/02-01/02-12.html 

広島・長崎の原爆被害者を対象とした疫学調査の結果から低線量被爆(50~100ミリシーベルト)では統計的に有意差は認められていません。つまり100ミリシーベルトの被爆ではがんが発症したとしても放射線被ばくか自然発生なのか区別がつかないといっているのですね。

もう一度いいます。

100ミリシーベルトの被爆が原因でがんが100パーセント発症するわけではない!

東京の方まで聞こえますように。

2を受けての3ですが、

この東京新聞の記事をまともに受け取った読者はどう思うでしょうか。

正確ではないけど最大のリスクを考慮して算出した100ミリシーベルト。

その値からは確実にがんになると言えないのに、その少女は将来がん・白血病患者予備軍として生涯扱われるわけですね。

この子だけではなく、汚染地域に当時暮らしていた人々は今後どこに行っても死ぬまで同じような目で見られることになります。

そしてがんは国民の2人に1人が発症する病なのに、汚染地域出身者ががんになると

「ほらね、やっぱり」

と周囲からは確実に思われるでしょう。

国民の被ばくに関する意識が変わらなければ間違った認識が数世代後まで続くと思います。

この偏見・差別を明らかに扇動して恐怖によって記事を売り上げているのはマスコミだと思うのですよ。

放射線従事者として思うこと

個人的には100ミリシーベルトでがんになると吹聴するメディア様に申し上げたい。

私たち放射線技師は確実にがんになるんですかと。

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職業被ばくの線量限度

電離放射線障害防止規則(ICRP[国際放射線防護委員会]2007年勧告に基づく)で定められた線量限度についてみてみます。

一般公衆

1ミリシーベルト/年(自然放射線2.4ミリシーベルト:日本)

放射線従事者

実効線量 100ミリシーベルト/5年(50ミリシーベルト/年)
どちらも医療被曝は除く 

この意味は

被ばくの実効線量が5年間で100ミリシーベルトに収まるなら放射線の仕事を続けて構いませんよ、と法令は言っているのですね。

もし100ミリシーベルトでがんになるのだったら国際基準がこんなに数値ギリギリまで攻めてきますかね。がんになるまで仕事をしろと言ってるようなもんです。

世界中の頭脳を持ち寄って出した基準が、がん発症との境界ってどう考えても頭が悪すぎます。いつの時代の話だという。

職業差別のおそれさえある東京新聞記事

この東京新聞の問題記事はそう考えると職業差別にもつながりますね。

一般の人は放射線技師が被ばくが多いと考えるかもしれません。100ミリシーベルトが境界になると、我々に対して立派な被ばく者としてのレッテルを貼ることができます。そうなると放射線技師も被災地の人と同様にいわれなき差別にさらされて生きていかなければいけなくなります。

結語

まとめると、影響力の計り知れない新聞社があいまいな情報で国民に誤解を生む報道をすると手が付けられません。恣意的な表現を用いた印象操作で国民の恐怖をあおり、被災地住民に対する差別と偏見を撒き散らしているのはいかがなものかと思います。

一般の方で放射線の単位はわかる人はそういませんからね。

では今日はこの辺で記事を終わります。

・・・

勘違いも甚だしい!

全然終われません。

今からここまで書いてきた内容をひっくり返すような事を書きますね。

あちこちから指摘が出ていますね。

これまで使ってきた単位はSv(シーベルト)。

実はシーベルトには2つの意味があります。

  • 実効線量
  • 等価線量

どちらも単位は同じSvシーベルトを用います。

そして東京新聞も林氏の記事の中にあるシーベルトもさも当然かの如く同じ意味合いで話が進んでますが、両者に食い違いがあります。

東京新聞記事=等価線量

林氏記事=実効線量

なのです。

東京新聞のいう等価線量100ミリシーベルトを実効線量に換算すると

等価線量[mSv]×組織加重係数=実効線量[mSv]
100[mSv]×0.04=4[mSv]

組織加重係数は元記事の中にある計測部分の(甲状腺部分)係数値を適用しています。

なんと本来の実効線量は4ミリシーベルトです!

(皮膚や脊髄などの組織加重係数はいれておりません。)

件の記事は被ばく線量を25倍も水増ししていました!

東京新聞が「100ミリシーベルトでがんの発症増加」としている100ミリシーベルトは実効線量の値なのであって、問題の少女が被ばくしたとされる実効線量は4ミリシーベルトというのが本当のところです。

くどいようですが、実効線量100ミリシーベルト以下の低線量被爆によるがんの発症は確率的事象です。しかもかなり低い。

結論からいいますと

東京新聞はシーベルトの意味が全然理解できていない

輪をかけて被ばく量を25倍水増しし、根拠のない100ミリシーベルトがん説を振り回しています。

震災から8年も経つのに実効線量と等価線量の違いもはっきりわからないまま新聞の一面に記事にしてしまう無神経さ・無責任さの方が被ばくより怖いです。

我々国民は情報を鵜呑みにすることなく自分の頭でしっかりと考えなければならないということなんでしょうね。

 

以上、日々被ばくさせている者からの提言でございました。

ただただ長いブログ記事になりました。ここまで読んでいただきありがとうございました。