屈折する星屑エセー

世はさだめなきこそ いみじけれ

胎動は奇書「ドグラ・マグラ」を思い出す。胎児の夢チャカポコチャカポコ。

胎児よ

胎児よ

何故躍る

母親の心がわかって

おそろしいのか 

 

 

…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。

 

「ドグラ・マグラ」夢野久作

 

最近、妻のお腹が波打っている。

赤ちゃんがボコボコ蹴っているのか動いているのか。

こういう胎動を目の当たりにするとかつて読破した奇書を思い出す。

 

ドグラ・マグラだ。

表紙絵がすでに狂っている。

そして裏表紙には好奇心をわし掴むようにこんな紹介文が記載されている。

 

「これを読む者は一度は精神に異常をきたすと伝えられる、一大奇書。」

 

精神に異常をきたす・・・この甘美な響きに誘われて私は必死で読んだ。

狂う。確かに頭がどうかなりそうだった。

疑う諸氏は本書を一度手に取ってみてほしい。

もはや途中からは意地であった。しがみついて読んだ。なぜなら

チャカポコチャカポコ

という音頭だけで原稿用紙何枚分だろうかと気が遠くなるほどだ。これは作中に登場するお囃子であってチャカポコの作詞者はこのように記述がある。

キチガイ地獄外道祭文

――一名、狂人の暗黒時代――

墺国理学博士         
独国哲学博士 面黒楼万児めんくろうまんじ 作歌
仏国文学博士      

言葉の持つパワーが圧倒的だ。 

今の世の中では禁忌ワードのため物議を醸しそうだ。

 

読破した者から感想を述べると、奇書であることは間違いない。しかしキチガイになるほどではない。正常なメンタルを持つ人ならチャカポコが始まった時点で本を閉じるだろう。

本書は青空文庫で読めるので気が狂いたい人は是非読破してほしい。

www.aozora.gr.jp

 

あくまでここまでは序段。

今回、私が胎動から思い出したのはドグラ・マグラ内で仮説が立てられている、とある事象についてだ。それは心理遺伝なる仮説。

心理遺伝

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File:Haeckel drawings.jpg - Wikimedia Commons

左から魚類、爬虫類、哺乳類、人間の胎児の並びである。

しかしⅠの状態ではどれも似た形状をしている。エラや尻尾がある。

この共通点に着目した夢Qは心理遺伝なる仮説を生み出した。

 

これについて明快に解説されたブログを引用したい。

根拠となるヘッケルの反復説

 ほ乳類の祖先がエラを持った魚類やシッポを持った爬虫類であったことを考えると、受精卵が人間らしくなる過程で一時的に魚になったり爬虫類になったりしているように見えます。

というわけで、これらの観察結果からヘッケルは「個体発生は系統発生を繰り返す」と考えたようです。

個体発生とは、受精卵が一個体として成熟することで、系統発生とは生物種が、原始的な生物種から進化すること(例えば魚から爬虫類、爬虫類からほ乳類)を言います。

kashiyukawaii.com

 

ドグラ・マグラでは胎児は母胎内で原始の生物から現在の人間に至るまで全ての進化の過程を経ているというものだ。

 

心理遺伝は似非科学だということだが、妙に納得させるものがある。

妻の婦人科検診で撮影してくれるエコー写真を時系列で眺めてみてもそうだ。

最初はたまごみたいな丸であったのが、途中は尻尾みたいなのが写り、今では人間の顔になっている。

そう思うと妻のお腹をボコボコしている時はかつて進化の樹形図が分かれる前の生物たちの夢を見ているのかもしれない。

ときにはアメーバ、またあるときはカエル。また別のときにはクジラやカモメ・・・。

 

胎教として「平家物語」や「竹取物語」を聞かせると動きが止むのはまだ人間になっていない証拠なのだろう。

しかし、映画エクスペンダブルズを観ると大騒ぎしている。これは決して古典が大嫌いなのではないし、まして単細胞映画が大好きという訳でもない。まだ胎内で哺乳類になっていないのだきっと。そうに違いない。ただ大きな音に反応しているだけだと願いたい。

 

ということで秋の夜長にドグラ・マグラをオススメしておきます。

ちなみに映画化もされていますので、見つけたら是非一度鑑賞してみてください。